場の空気も「アルハラに該当」大阪高裁が所見
(ご遺族のコメントも含めた詳細)
【近畿大学2年生の死亡事件の概要】
2017年12月、近畿大学のテニスサークルの役員交代で飲み会が行なわれました。3年生8人と2年生3人が参加し、2年生の登森勇斗さん(当時20歳)がコールをかけられてショットグラス20杯分のウォッカをイッキ飲みし、間もなく酔いつぶれて呼びかけに応じなくなりました。
飲み会の終了時刻に合わせて、「はけさし」と呼ばれるしらふの介護役(2年生8人)が会場に到着。登森さんの様子を見て、スマホで急性アルコール中毒について検索し、3年生に相談したものの、結局は救急車を呼ばないという判断になりました。意識のない登森さんを他の部員のアパートに運び込み、酔いつぶれた部員だけで付き添う人もいないまま、放置。
登森さんは急性アルコール中毒の影響で吐いた物を喉に詰まらせ、窒息死しました。
大阪府警の捜査で2019年に学生9人が過失致死罪で略式起訴され、全員に罰金の略式命令が出されました。
2020年に登森さんのご両親が学生と大学を民事提訴し、このうち近畿大学とは再発防止の徹底を条件に和解が成立。2023年、大阪地裁が元学生らに救護義務違反による賠償を命じましたが、16人のうち12人が控訴。そして2024年1月15日、控訴していなかった4人を含めて、ご両親に5090万円を支払う条件で和解が成立しました。
大阪高裁による和解調書では、次のような所見が示されています。
●飲ませた責任について
一審では「違法な飲酒の強要はなかった」として、飲ませた責任は認められませんでしたが、二審では次の所見が示されました。
「たとえ物理的な飲酒の強要がなかったとしても、コールと場の空気による心理的な強要が働くのであって、アルコールハラスメントに該当する」
●放置した責任について
二審では「その結果は、死亡という重大なものであり、その態様は、人により関与の程度に濃淡はあるが、保護責任者遺棄致死罪にも値する行為である」とされました。
イッキ飲み防止連絡協議会が、飲酒強要の危険を広く知らせるため、アルコールハラスメントという言葉をキャンペーンで使い始めたのは2000年のことでした。
それからここに至るまでには、子どもの死について真実を知りたいと願って訴訟を起こした、多くのご遺族の戦いがありました。
そして今回、「場の空気」も心理的な強要でありアルコールハラスメントだとの所見が示されたのです。これは訴訟の積み重ねによる、大きな前進です。
けれどそれは、若者たちのかけがえのない命が失われた積み重ねでもあることを、決して忘れてはいけません。
登森勇斗さんのご両親は、次のようなコメントを発表されています。
「たった一本電話をかけて、救急車を呼んでさえいてくれたら、勇斗の命は確実に救われていました。この事件はまだ終わっていません。勇斗以外にもアルコールハラスメントや救急車を呼ばれなかったことで命を落とした学生は数多くいます。本件のような事故を二度と起こさないための、全ての取組みのスタートであって欲しいと願っています」